つらつら日記〜かあちゃん編〜
by annin8
S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31
ひっこしの話
根気よく3軒の不動産屋をまわり、ようやく都島区内に新居を決めた。
大阪とはいえ、あたりは住宅地なのでそんなに治安は悪くないようだし、もちろん今より家賃はあがるけれど、キッチンが広くてお風呂とトイレがセパレートになったのがうれしい。ガスコンロもふたくちついている。

部屋も決まったし、いよいよ「京都からでていくんやなぁ」という実感が湧いてくるかと思ったけれど、そうでもない。
しなければいけないことが山積みで、しばらくはてんてこまいの日々が続くことになる。

あー引越しってほんまに厄介。これで4度目とはいえ、できることならもう一生したくない(とこれまで3回したときもそう思った)。
しかし、駄々をこねても仕方がない。自分で決めたことであるうえに、晴れがましい事情による引っ越しなんだから、気合いをいれて早々と荷物をまとめることにした。
 
段ボールの山と格闘している最中、最近読んだ本の冒頭を思い出した。

−人間の体のどこかに、ありとあらゆる記憶を沈めておく巨大な湖のような場所があって、その底には失われたはずの無数の過去が沈殿している。何かを思い立ち何かを始めようとするとき、目が覚めてまだ何も考えられないでいる朝、とうの昔に忘れ去っていたはずの記憶が、湖底から不意にゆらゆらと浮かび上がってくることがある。
それに手を伸ばす。
湖に浮かべられたボートから、手を伸ばす。しかしボートの上から湖の底が見えたとしてもそこに手が届かないように、沈殿している過去を二度とその手に取ることはできない。(『パイロットフィッシュ』大崎善生)

引っ越しは、「沈殿している過去を覗き込む」という作業なしにはできない。
部屋の中にあるものすべてにそのときどきの思い出のようなものがくっついている。
「そんなこと、忘れてたのに」ということが、荷物を片付け始めるととたんに現われてくる。
しばらくぶりに表紙を見た本。折り曲げているページを開くと、同じ一行に目がとまる。
CDとCDの隙間からでてきた、欲しいものリストを記したメモ用紙。書かれていた中で、いま手にしているものはほとんどない。
ベッドの隅に落ちていた腹巻き。私が喜ぶと母はもう一枚買ってきた。
確か雨の日に買ったシャツ。プリントの裏の手紙。段ボールの手触り。はじめてのひとり暮らし。

歳を重ねるごとにどんどん一日が短くなって、一週間経つのがあっという間になって、ついこの間のことをうまく思い出せなくなっていく。
持病の「めんどくさい病」に悩まされている私のような人にとってはしんどいかもしれないが、引っ越しをすると荷物だけではなくて、記憶の整理にもなる、かもしれない。

一生引っ越ししたくないと言ったけど死ぬまでワンルームに住むのはいやなので、多分また同じ煩わしさを呪いつつ、ゆらゆらと浮かび上がってきた過去に手をのばしてみることになるのだろう。
[PR]
by annin8 | 2004-06-29 19:41 | 本の話
<< 母のことば 朝 >>